感謝と謙虚を忘れずに

TSUBOI NAMIE

坪井 奈美恵

株式会社峰商店

1970年、長野県生まれ、愛知県育ち。市村学園高等学校卒業後、陸上競技の実績を生かして地元大手企業に入社。その後、家業である峰商店に入社し、経理・総務を担当。2017年、先代である父の逝去から2年後に代表取締役へ就任。創業55年を超える同社を率いながら、地域と従業員に寄り添う経営を実践している。

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AICHI

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移動式クレーンでまちづくりを支える会社

クレーンが空を支え、街をつくる…株式会社峰商店は、建設現場に欠かせない「移動式クレーンリース業」を営む老舗企業です。そのハンドルを握るのは、約50名の運転士たち。そして、そのチームを支えるのが、代表の坪井奈美恵さん。2代目社長として就任してから、父の遺した会社を「代わりに預かる」という気持ちで守りながら、社員と家族のように向き合ってきました。「私の会社という自覚はさらさらない、支えてくれるみんながいるから続けられるんです」そう語る言葉には、経営者としての覚悟と優しさがあらわれます。

Q:どのような会社ですか?
A(坪井さん):当社は「移動式クレーンのリース業」をしています。リースといっても、機械だけを貸すのではなく、運転士が一緒に現場に行って作業を行う“人付きリース”です。全国各地の工事現場でクレーンを操作し、建物や構造物の組み立てを支えています。

みんなの生活を守るために

Q:社長に就任されたきっかけを教えてください。
A:父が亡くなり、最終的に創業者の娘である私が引き継ぎました。正直、自分から「やりたい」と言ったわけではなく、誰かがやらなければ会社が止まってしまうから、ただそれだけでした。最初の3年間は、さまざまな整理に追われて、本業に集中できませんでした。

Q:それでも辞めようとは思わなかった?
A:そうですね。会社には50人もの従業員がいて、その生活がかかっています。「とにかくみんなの生活を守らなきゃ」それしか考えていませんでした。父が築いた“峰商店”という会社を守るためにも、やり切るしかなかったんです。

Q:経営者として心がけていることはなんですか?
A:「私は先代の代理でやらせてもらっている」という意識を忘れないことですね。だからこそ、周りに迷惑をかけず、次の世代にきれいな形で引き継ぎたいと思っています。

アットホームなチームワーク

Q:従業員の規模や年齢層は?
A:現在は約50名。ほとんどがクレーン運転士で、平均年齢は40代半ばで最年少は23歳です。年齢に関係なく皆さん本当に真面目で、一度現場に出ると最後まで責任を持ってやり遂げてくれます。遠方の現場でも夜通し走って、次の日も現場に立つ姿には本当に頭が下がります。

Q:ちなみに、社員との距離が近いと伺いました。
A:はい(笑)。みんなからは「社長」ではなく“名前で呼ばれたりもしています。小さい頃から会社の事務所で育ったので、従業員さんたちは家族のような存在なんです。なるべく毎日顔を合わせて話すようにしていて、リモートワークではなく、事務所に帰ってきてもらうようにしています。体調が悪そうな人がいれば声をかけたり、仕事以外の話をしたり。壁をつくらないように意識しています。

Q:そうした雰囲気づくりは意識的に?
A:いえ、最初からそうだったのかもしれませんね。この仕事って一人のようで実はチームプレーなので、人間関係がギスギスしていたら現場もうまくいかないと思っています。言うなれば学校みたいな雰囲気で、“部活の仲間”みたいなチームワークがあります。これは従業員のみんながおのずと作り上げてくれていると思います。

一人では何もできない

Q:会社としてこれからも大切にしていくことは何ですか?
A: 感謝の気持ちです。父の代は典型的なワンマン経営でした。私が力不足だからこそ今は「一人では何もできない」と実感しています。社員はもちろん、取引先やお客様、地域の方々に助けられて、ようやく会社は成り立っていると思っています。それを忘れず、事故のないよう、安全第一で一歩一歩前に進んでいくことを大切にしています。

社員を家族のように思い、地域とともに歩む坪井さんのその姿勢は、派手さよりも温かさで輝いています。“峰商店”という名前に恥じないように…今日も現場では、クレーンの音とともに、その想いが静かに響いているでしょう。

「若いって、本当にすごいこと。やりたいことがあるなら、後回しにせず、今すぐ行動に移してほしいです。私自身、病気を経験して、「明日があるとは限らない」と痛感しました。なにかを理由に諦める必要はありません。挑戦して失敗してもいいから、まず動いてみる。そして、たくさんの人と出会って、話を聞いて、人脈を広げてください。その一歩一歩が、後悔のない人生につながると思います」