「褒められる会社」
をつくるために

YOSHIDA HARUNOBU

吉田 治伸

コニックス株式会社

1960年愛知県生まれ。1982年に名古屋大学を卒業後、中京テレビ放送に入社。さまざまな現場を経験したのち、1995年に妻の家業であるコニックス(当時:吉田興業)へ入社。2003年に代表取締役社長に就任。清掃・警備・設備管理など、総合ビルメンテナンス業を多角化し、グループ全体で約2,800人規模へと成長させた。

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AICHI

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徹底して社員のことを考え続けるビルメンテナンス会社

名古屋を拠点に、清掃・警備・設備保全など、建物管理のあらゆる分野を支えるコニックス株式会社。創業から70年を迎え、グループ全体で2,800人を超える従業員を擁する総合ビルメンテナンス企業です。1955年、戦後の建築ラッシュの中で、「建物をきれいに保つ」ことの価値をいち早く見抜いた創業者が立ち上げた同社は、清掃業が「下請け」や「裏方」と見なされていた時代に、社会の衛生環境を支える仕事としてその礎を築き上げました。3代目社長の吉田治伸代表は、そんな先代の意思を継ぎつつも、まったく新しいかたちで会社を“立て直した”同社のキーパーソンです。

Q:改めて、コニックスの事業内容について教えてください。
A(吉田さん):当社は総合ビルメンテナンス業として、建物に関するあらゆる仕事を担っています。清掃、警備、設備保全、受付、人材派遣など、建物の運営に関わるすべての領域をカバーしています。最近ではホテルのベッドメイク事業が大きく成長しており、売上は30億円規模に急成長。
加えて、建物の設備工事も強化しています。建物をきれいにする会社から、“建物を最適化する会社”へと進化しています。

「自分がやるしかない」

Q:入社当初の状況はどんな感じだったのでしょうか?
A:正直、驚きましたね。社員が出社しても挨拶をしない、電話すら取らない。会社の空気は重かった。現場の人が“誇り”を持てていなかったんです。でもこれは弊社の課題というより、業界、ひいては社会の課題だと感じました。あるとき、「あんな人間、警備員ぐらいしかできない」と話す声を聞いたんですよ。悔しかった。でも同時に私は思いました。「この仕事は人に感謝される仕事だ」と。建物を清潔に保つこと、施設を守ることは、人の生活を支えることそのものなんです。

Q:そんな状況から、どのように今の規模にまで拡大できたのでしょうか?
A:自分がやるしかないと思いました。一人で営業し、現場に立ち、少しずつ信頼を取り戻していった。7歳で父を亡くした経験から、“人に頼らず自分でやる”という生き方が身についていたのだと思います。次第に同じ方向を向いてくれる社員が増えましたし、そんな我々を見て契約してくださるお客様も多くなりました。「あきらめない」という手応えは、私にとって一生の財産です。

社員が会社を自慢するような会社へ

Q:現在注力している事業について教えてください。
A:清掃や警備だけでなく、ホテルのベッドメイク事業や建物設備工事に力を入れています。ホテル業界では人手不足が深刻ですが、当社のサービスは全国規模に拡大中です。また、今後はAIやロボットを活用した「建物全体の最適管理」の提案も進めています。清掃はコモディティ化していきますが、人の心を動かす提案には終わりがありません。「建物の衛生管理から社会の仕組みを変える」、それが次のステージです。

Q:「スマイル研修」という取り組みについて教えてください。
A:社員に「どうすれば褒められるか」を考えてもらう研修です。笑顔や挨拶、身だしなみといった基本的なことですが、それをやるだけで評価が変わるようにしております。褒められると、人は嬉しいじゃないですか。嬉しいと、もっと頑張ろうと思えるんです。褒められることは誰にでもできるし、給与以上のモチベーションになると感じています。その文化が広がった結果、社員が会社を“自慢”してくれるようになりました。社員に会社を誇りに思ってくれることより、喜ばしいことなんてありません。

頂上を見るな、足元を見ろ

Q:今後、会社としてどんな姿を目指していますか?
A:私の好きな言葉に「頂上を見るな、足元を見ろ」というものがあります。会社のビジョンを聞かれたら、「よく働くこと」と答えます。ワークライフバランスも大切ですが、働くことは人を幸せにする行為だと思っています。よく働き、よく考え、よく笑う。それができる会社であれば、自然とお客様にも喜ばれ、社員も満たされる。「褒められる会社」こそ、コニックスが目指す姿です。

清掃、警備、ホテル、そして建物の未来へ。創業70年の老舗を、「人から褒められる会社」へと変えた吉田治伸社長の経営哲学は、清掃業界にとどまらず「働くことの意味」を改めて問いかけています。コニックスの挑戦は、働く人々の誇りを取り戻しながら、地域と社会を静かに変えていくことでしょう。

「これからの時代は、私たちのやり方がそのまま通用するわけではありません。やったことのない挑戦を恐れずに、“違うやり方”をつくってほしい。今までの成功体験では語れない時代が来ていますから。でも、根っこにある“ありがとう”という気持ちは変わらないと思うんです。それを大切にできる人が、きっと次の時代をつくっていくと確信しています」