安心を
最速で届けるために

KITAGAWA KEISUKE

北川 啓介

名古屋工業大学

1974年、愛知県出身。名古屋工業大学、同大学大学院卒業後、1999年ニューヨークの建築設計事務所にて建築設計に従事。2001年博士後期課程修了。同大学助手、講師、准教授を経て、2018年から現職。未来志向の建築や都市を考案し、実用化した上での事業化を推進。2017年米国プリンストン大学客員研究員。株式会社LIFULL ArchiTech(大学発ベンチャー)代表取締役社長兼CEO。建築構造物領域のプロフェッショナルであり、インスタントハウス技術の考案者。

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AICHI

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建築の常識を壊す―インスタントハウス考案者

「来週建てられる問題のない家」を合言葉に、被災地で素早く安心できる居場所をつくる“インスタントハウス”を研究・実装してきた北川啓介教授。きっかけは、震災直後の避難所で出会った小学生の「なんで仮設住宅ができるまで半年もかかるの?」という一言。この問いが、建築の常識をひっくり返す挑戦へと火をつけました。

Q: 北川さんのものづくりの原点について教えてください。
A(北川さん):実は、出発点は家業の和菓子なんです。お客さんが喜ぶ顔を間近で見て、「手を動かして誰かの役に立つ」ことが好きになりました。父からは「和菓子の腕だけでなくもうひとつの腕ももつと良い」と言われて建築を志し、好奇心を保つために和菓子の素材で建築模型を作るなど、遊び心を忘れずに学んで育ったかたちです。その情熱をもって、名古屋工業大学をはじめ海外の設計事務所でも修行してきました。帰国後大学教員として、漫画喫茶やパチンコ店など“サブカル系”の建築研究にも取り組んできました。

「仮設住宅をもっと早く建てられないの?」

Q:2011年に発生した東日本大震災。訪れた現場で、何を見て、何を思われたのでしょう?
A:避難所の過酷な住環境に言葉を失いました。そこで小学4年生の子から「仮設住宅をもっと早く建てられないの?」と聞かれて…胸に刺さったんです。専門家として、「来週建てられる家」を本気で考え始めました。既存の家の“弱点”(重い、部材が多い、運びづらい)を並べ、その逆を目指す。ダウンジャケットからヒントを得て、「空気を断熱材として使う」設計にたどり着いたのがインスタントハウスです。2016年に実物大の原型ができたところ、極めて反響が大きく、急いで大学で特許を取得しました。その後、世界中から協働したいとの連絡が相次ぎました。2019年に大学発ベンチャーを立ち上げて、実用化を加速しました。

Q:被災地で、実際に完成品を受け取った方の反応はどうでしたか?
A:嬉しかったのは、受け取った人たちがすぐにレイアウトを工夫したり、色を塗ったりして「自分の居場所」にしていく姿でした。避難所が「ただいま!」と言える場所になる…つまり建築が人の心に与えるポジティブな力を、現場で改めて感じました。

スピードは尊厳の問題

Q:今、取り組んでいるテーマは?
A:16のプロジェクトが同時進行です。たとえばポテトチップスの袋のような素材を使った「超軽量・高断熱の家」や、廃棄物を再資源化してつくる「0円ハウス」。共通するのは、ルールや前提を疑い、最短距離で“人の困りごと”を解くこと。困っている人がいたら、まず駆けつけるのが人として当たり前だと思っていますから、即応性が高いことに何よりもこだわっています。被災地では“いま必要な安心”を届けることが大事。つまりスピードは、尊厳の問題でもあるんです。

Q:これまでの実際の展開事例を教えてください。
A:海外ではトルコ・シリア(2023年2月)とモロッコ(同年9月)の地震で活用していただき、トルコ政府からも感謝のお言葉をいただきました。国内では2024年1月の能登半島地震の直後に、大学にあったユニットを現地へ。ちなみにこの資材は、国の補助金ではなく、世界中からのご寄付を原資に実費でお届けしています。ご寄付いただいた世界中の皆様からのお気持ちと共におうちをお届けでき、被災された方へ勇気と希望もお届けできています。

Q:衛生・健康面での効果は?
A:避難所で拡散しやすい感染症…つまりコロナ、インフル、ノロなどは“空気の流れ”がカギです。段ボール製ユニットを使ったハウスの事例では、感染率が90%超から0%まで下がったケースもありました。設計次第で、安心はデザインできる。医学の領域からも注目いただいています。

未来の教科書を自分たちで書く

Q:これからの方針を、一言で言うと?
A:「来週建てられる家」を、さらに軽く、強く、あたたかく。気候危機や感染症など、災害の“質”は変わり続けます。だから技術も仕組みも、アップデートを止めない。現場で使える解を、現場と一緒につくり続けます。

北川さんの「来週建てられる家」という言葉には、スピード以上の意味が込められています。それは“いますぐ安心したい”という人の自然な願いに、技術と想像力で応えるという約束。北川さんの歩みは、建築を道具に、尊厳を守るための最短ルートを探し続ける物語でした。

「マニュアルや“正解”に縛られすぎないでください。自分の感覚に素直になり、社会の仕組みそのものを疑ってみる。既存の教科書をなぞるのではなく、未来の「教科書」を自分たちで書くつもりで挑戦してほしい。クリエイティビティは、困っている誰かをちゃんと助けられます」

地球上で家に困る人々へのインスタントハウス基金
https://www.nitech.ac.jp/kikin/contribution/support-instant-products.html