本質を次世代に
つなげ続ける

SATO MOTOHIDE

佐藤 元英

ヤマサちくわ株式会社

1959年愛知県豊橋市生まれ。慶應義塾大学卒業後、ヤマサちくわ株式会社に入社。15年間にわたり工場で製造現場に従事し、ちくわづくりのすべてを身につける。現場叩き上げの感覚を持ちながら経営を担う社長として、製造から販売までの一貫体制を守り続ける。伝統製法を継承する一方で、カンボジア産の黒胡椒を使った「黒胡椒豆ちくわ」など新たな挑戦も行い、200年企業の次なる100年を見据えている。

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AICHI

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200年挑戦し続けている練り物加工会社

創業は文政10年(1827年)。江戸時代から続く企業として、豊橋の地で約200年もの間、水産練り製品を作り続けてきた「ヤマサちくわ株式会社」。ちくわやかまぼこを中心に、魚本来の旨みを活かした製品づくりで知られる老舗です。代表を務める佐藤元英さんは「まずいものは作らない」「自分が食べたくないものは出さない」という信念のもと、伝統の味を次の世代へとつないでいます。一見豪快でユーモアたっぷりな語り口の奥には、「味」と「人」への真摯なまなざしがありました。今回は、二世紀企業を率いる佐藤代表に、伝統の裏側とこれからの挑戦について話を伺います。

Q:学生時代から家業を継ぐ意識はありましたか?
A(佐藤さん):決めていたわけじゃないけど、そういうもんだと思っていました。職業選択って発想もなかったですね。家族に「継げ」と言われたこともないけど、自然とその流れに。もう“洗脳されてる”くらいの感覚ですよ(笑)。

現場経験が経営のすべての基礎に

Q:社長は大学卒業後、すぐにヤマサちくわに入社されたそうですね。
A: はい。実はすぐに入社することは考えていませんでした。もともとは商社に入って海外勤務を経験してから戻るつもりだったんですが、時代の流れもあってそのまま入社しました。最初の15年間はずっと工場で働きましたね。朝6時に出社して、ちくわを作って。終わったら次の仕事。まさに現場づくしの日々でした。

Q:当時の会社はどんな雰囲気でしたか?
A:今とあんまり変わらないです。むしろ昔の方が人は多かった。機械化されていない分、手仕事が多かったものですから、職人たちの間には独特の緊張感と誇りがありました。うちは魚を仕入れるところから販売まで全部自社でやっているので、社員が400人近くいても、みんなが「ものづくりの一部」だという感覚を持っている。それが今も強みの一つですね。

Q:現場での経験が、今の経営にどんな影響を与えていますか?
A: すべての基礎になっています。現場を知らずに経営はできません。味や製法の理屈だけを学ぶのではなく、魚の状態、気温、塩の加減など、五感で感じ取ることが何よりも大事。高知大学で1年間、かまぼこの研究もしましたが、現場の方がよほど進んでいました…(笑)。理論よりも先に“体で覚える”世界なんだなと気づきました。

仕入れから販売まで自社完結の一貫体制

Q:ヤマサちくわの最大の強みは何でしょうか?
A: 生の魚から製品を作れることです。実は今の業界では、すり身を仕入れて加工する会社が多いんです。でもうちは昔から魚そのものを扱って、すり身を作るところから始めるんですね。これはものすごく手間がかかります。でも、やっぱり味が違う。差別化というより、“おいしいものを作りたい”という気持ちからきています。

Q:製造から販売まで自社で行う一貫体制も特徴ですね。
A: はい。魚を仕入れてから、お客様に届けるまで、すべて自社の社員が関わります。人件費はかかりますが、品質を守るためには必要なこと。うちは儲けよりも「信頼されるものづくり」を昔から大事にしていますから。

Q:近年の新しい挑戦としては?
A: 「黒胡椒豆ちくわ」という商品ですね。愛知県出身の方が、カンボジアで復活させた胡椒を使っています。フルーティーで香りがすばらしい。その胡椒とちくわを合わせたら驚くほど合って、ヒット商品になりました。こだわっていると、自然と同じように“変態的に”追求している人たちとつながるんですよ(笑)。
もちろん、近年目覚ましい冷凍技術やパッケージ技術の進化も忘れてはいけません。昔ながらの味を守りつつ、今の時代に合った届け方を考えることが大事。レストラン、ギフトショップ、ファストフード型の店舗…形は変わっても「本物」を届ける気持ちは同じです。つねにアップデートを心がけています。

これからも変えない「本質」

Q:これからのヤマサちくわが目指す方向は?
A: 伝統的な製法と品質を守りながら、“本物の練り製品”を次の世代に残していくことです。冷凍技術やパッケージの進化など、現代の技術を活かして、おいしさを損なわずに届ける方法をこれからも探しています。変わるのは「形」であって「本質」は変えません。

200年の歴史を持つ老舗でありながら、どこまでも現場主義。「まずいものは作らない」という言葉の裏には、食を通じて“人を幸せにする”という使命があります。手を抜かず、時代に流されず、誠実に作り続ける、ヤマサちくわの味は、そんな職人たちの想いと共に、これからも豊橋の地で息づいていくことでしょう。

「人生で一番幸せなのは、好きなことを仕事にできること。やらされる仕事は面白くないじゃないですか。自分が心から「やりたい」と思えることを見つけてほしいです。もちろん、はじめから自分がなにをやりたいのか、理解している人なんてそうそういません。だから、若いうちはとにかく外に出て、いろんな人に会って、いろんなものを見てください。そうすれば、自然と“自分の好き”が見えてくる。それがあれば、どんな苦労も乗り越えられると思います」