“保育園に頼らなくても
安心できる社会”という理想へ
KONDO TOSHIYA
近藤 敏矢
社会福祉法人みなみ福祉会
1969年、名古屋市生まれ。名古屋大学大学院情報工学専攻を修了後、日本電信電話株式会社(NTT)に入社。1999年、社会福祉法人みなみ福祉会に転職。2004年に笠寺幼児園園長、2019年に理事長に就任。現在は法人全体の運営を統括しながら、保育・児童発達支援・地域子育て支援など、多岐にわたる福祉事業を展開。著書に『ここが変だよ、保育園』(幻冬舎)、『親が知らない保育園のこと』(游藝舎)。
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AICHI
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“保育園がなくても困らない社会”を目指す理事長?
戦後間もない1951年、名古屋の南区に小さな保育園が誕生しました。それが現在の社会福祉法人みなみ福祉会の原点です。「子どもたちが安心して遊び、育つ場所をつくりたい」そんな想いから始まった取り組みは、70年以上の時を経て、いまや保育園、認定こども園、小規模保育、児童発達支援、地域子育て支援拠点などを運営する法人へと発展しました。その三代目理事長・近藤敏矢さんは、エンジニア出身という異色の経歴を持ちながら、「保育園がなくても誰も困らない社会」を理想に掲げています。一見、逆説的にも聞こえるその言葉に、近藤さんの保育観と社会観が凝縮されていました。
Q:みなみ福祉会はどのような法人ですか?
A(近藤さん):私たちは、保育園や認定こども園を中心に、児童発達支援や地域子育て支援など、“子ども”を軸とした福祉サービスを展開しています。法人の始まりは、祖父が立ち上げた小さな保育園「笠寺幼児園」です。戦後の混乱期、小学校に上がる前の子どもたちが安心して過ごせる場をつくるために始まりました。祖母、父、そして私へと受け継がれ、現在は複数の施設を運営しています。
Q:みなみ福祉会はどのような法人ですか?
A(近藤さん):私たちは、保育園や認定こども園を中心に、児童発達支援や地域子育て支援など、“子ども”を軸とした福祉サービスを展開しています。法人の始まりは、祖父が立ち上げた小さな保育園「笠寺幼児園」です。戦後の混乱期、小学校に上がる前の子どもたちが安心して過ごせる場をつくるために始まりました。祖母、父、そして私へと受け継がれ、現在は複数の施設を運営しています。
組織を“人に頼らず仕組みで動く”形へ
Q:理事長就任後、どのような改革に取り組まれたのですか?
A:理事長に就任したとき、まず考えたのは「特定の誰かがいなくなると回らなくなる」という状況をなくすことでした。それは、私自身にも当てはまります。「あの人がいないと困る」という状態は、本人からすると「組織のなかで必要不可欠な立場にいる」と感じるかもしれませんが、実は当人の存在自体が組織全体の弱点になってしまうことを意味します。つまり、その人がいなくなると組織として機能しなくなる可能性があるということ。そこで取り組んだのが、役割と責任を明確にし、誰もが自分の権限範囲内で自由に判断でき、組織の上位者の権限は何か、その権限を取得するにはどのようにしたらよいかを明確にした仕組みづくりでした。
一人の力に依存しないシステムを構築する…これにより、私たちはしっかりと歩き続けることができる。組織としてより確実に強くなることができるのです。
Q:福祉・保育の世界で「経営」という視点を特に大切にされている理由は?
A:みんなが笑顔でい続けられるようにするためです。福祉の世界では、「良いことをしているから続く」と思われがちです。けれど、事業の継続性を確保しなければ“良いこと”も守れません。経営とは、感情や思いでなく、社会に対してどれだけ有益であり続けられるかを常に問い直すことです。社会に対して有益性を発揮できているからこそ、組織は存在価値を持ち、結果として資金が循環します。資金は目的ではなく、組織が社会に貢献できている証明です。そのためには、時代の変化に応じて方向性を見直し、数字とルールで現状を検証し続けることが欠かせません。
経営も保育も、目的は同じです。「今」の子どもたちに良いことのみを提供するだけでは、「未来」の子どもたちに良いことを提供できず、必ずどこかで破綻します。破綻に至る社会的リスクは多岐に渡りますし、それらへの対策を怠ると、最終的に現場へしわ寄せが来ます。
感情の優しさだけでなく、“続けるための優しさ”を持つこと。それが、私の考える経営者としての覚悟…組織を牽引する者としての最低限の責任です。
A:理事長に就任したとき、まず考えたのは「特定の誰かがいなくなると回らなくなる」という状況をなくすことでした。それは、私自身にも当てはまります。「あの人がいないと困る」という状態は、本人からすると「組織のなかで必要不可欠な立場にいる」と感じるかもしれませんが、実は当人の存在自体が組織全体の弱点になってしまうことを意味します。つまり、その人がいなくなると組織として機能しなくなる可能性があるということ。そこで取り組んだのが、役割と責任を明確にし、誰もが自分の権限範囲内で自由に判断でき、組織の上位者の権限は何か、その権限を取得するにはどのようにしたらよいかを明確にした仕組みづくりでした。
一人の力に依存しないシステムを構築する…これにより、私たちはしっかりと歩き続けることができる。組織としてより確実に強くなることができるのです。
Q:福祉・保育の世界で「経営」という視点を特に大切にされている理由は?
A:みんなが笑顔でい続けられるようにするためです。福祉の世界では、「良いことをしているから続く」と思われがちです。けれど、事業の継続性を確保しなければ“良いこと”も守れません。経営とは、感情や思いでなく、社会に対してどれだけ有益であり続けられるかを常に問い直すことです。社会に対して有益性を発揮できているからこそ、組織は存在価値を持ち、結果として資金が循環します。資金は目的ではなく、組織が社会に貢献できている証明です。そのためには、時代の変化に応じて方向性を見直し、数字とルールで現状を検証し続けることが欠かせません。
経営も保育も、目的は同じです。「今」の子どもたちに良いことのみを提供するだけでは、「未来」の子どもたちに良いことを提供できず、必ずどこかで破綻します。破綻に至る社会的リスクは多岐に渡りますし、それらへの対策を怠ると、最終的に現場へしわ寄せが来ます。
感情の優しさだけでなく、“続けるための優しさ”を持つこと。それが、私の考える経営者としての覚悟…組織を牽引する者としての最低限の責任です。
積み重ねてきた信頼と働きやすい環境
Q:法人の強みを挙げるとすれば?
A:信頼の積み重ねだと思います。みなみ福祉会は現在6つの事業所を運営していますが、歴史の長い施設もあれば、新しく立ち上がったばかりの事業もあります。しかしどの拠点にも共通しているのは、「数字とルールを徹底するからこそ、信頼が生まれる」という点です。ルールや目標が明確だからこそ、誰もが同じ方向を見て働くことができる。その実感が、結果として組織への信頼を強くしていきます。言い換えれば、“信頼”は先に意図して求めるものではなく、後から自然に発生するものであるべきです。
組織の規模が大きくなるほど、仕組みにより生まれる関係性で支え合う力が求められます。その両輪が整っていることこそ、私たち法人の一番の強みです。
Q:すばらしいですね。保育の現場で今も大切にしている価値観はありますか?
A:「子どもや子育て家庭の将来的な自立を目指すこと」ですね。たとえば、子どもが困っているときに、すぐ助けてあげることが“優しさ”ではありません。自分で考え、乗り越える力を育てる。その“見守る勇気”こそが、保育者の本当の優しさだと思います。そしてそれは、保護者や家庭の自立にもつながります。私たちはその子どもの親にはなれませんが、保護者が親として成長していくことを支えるのも保育の一部だと思っています。
もちろんこの考え方は、組織運営にも通じます。職員が課題に直面したとき、私は「こうしなさい」ではなく、「自分に与えられた権限の中で、何ができるか」を問います。それは冷たい指導ではなく、人の可能性を信じて任せるという尊重の形です。
成長に伴う負担は、個々にとって大きな重荷になることもあります。しかし、最終的には一人一人が自立して行動できるよう、成長を促すことが大切です。一人ひとりが自分の役割と責任を理解し、行動できるようになることが、結果として組織の自立にもつながると考えています。
A:信頼の積み重ねだと思います。みなみ福祉会は現在6つの事業所を運営していますが、歴史の長い施設もあれば、新しく立ち上がったばかりの事業もあります。しかしどの拠点にも共通しているのは、「数字とルールを徹底するからこそ、信頼が生まれる」という点です。ルールや目標が明確だからこそ、誰もが同じ方向を見て働くことができる。その実感が、結果として組織への信頼を強くしていきます。言い換えれば、“信頼”は先に意図して求めるものではなく、後から自然に発生するものであるべきです。
組織の規模が大きくなるほど、仕組みにより生まれる関係性で支え合う力が求められます。その両輪が整っていることこそ、私たち法人の一番の強みです。
Q:すばらしいですね。保育の現場で今も大切にしている価値観はありますか?
A:「子どもや子育て家庭の将来的な自立を目指すこと」ですね。たとえば、子どもが困っているときに、すぐ助けてあげることが“優しさ”ではありません。自分で考え、乗り越える力を育てる。その“見守る勇気”こそが、保育者の本当の優しさだと思います。そしてそれは、保護者や家庭の自立にもつながります。私たちはその子どもの親にはなれませんが、保護者が親として成長していくことを支えるのも保育の一部だと思っています。
もちろんこの考え方は、組織運営にも通じます。職員が課題に直面したとき、私は「こうしなさい」ではなく、「自分に与えられた権限の中で、何ができるか」を問います。それは冷たい指導ではなく、人の可能性を信じて任せるという尊重の形です。
成長に伴う負担は、個々にとって大きな重荷になることもあります。しかし、最終的には一人一人が自立して行動できるよう、成長を促すことが大切です。一人ひとりが自分の役割と責任を理解し、行動できるようになることが、結果として組織の自立にもつながると考えています。
究極の理想は「支え合いが当たり前」の社会
Q:理事長として描く“理想の社会像”とは?
A:私は「保育園がなくても誰も困らない社会」を目指しています。誤解を恐れずに言えば、それは行政による支援(公的サービス)に依存しなくても、人々が自然に支え合い、共助・互助の中で問題が解決され、公助に頼らなくても困らない、つまり公助から自立した状態になる地域社会のことです。保育園は法的にも社会的にも公的サービスの一つです。けれど、理想はその“制度の支え”がなくても、地域の共助や互助が機能し、日常的に助け合いが生まれる社会です。たとえば「今日は忙しいから、〇〇さんに子どもをお願いするね」「子どもは皆で協力しながら職場で面倒を見るから、一緒に安心して働こう」といった、いわゆる“お互い様”の文化が根づいていれば、保育園がなくても困らないはずです。それは、消防署がなくても火事が起きないので誰も困らない街、警察署がなくても犯罪・事故が起きないので誰も困らない街と同じ理想です。私たちは子どもたちへの保育に力を入れるよりも、地域の保育力を支え、強化のために支援する。制度や仕組みが支える前に、人が人を支え合える社会…そこにこそ、福祉の原点があると思っています。
保育園を運営しながら、保育園のいらない社会を目指す。その言葉には、社会福祉の本質が詰まっています。近藤さんが描くのは、“支え合いが当たり前にある地域”という未来。福祉を“依存の状態”ではなく“自立と共助の文化”として再定義する姿勢は、これからの時代に求められる福祉のかたちを示しています。
「仕事は世の中をより良くするための手段。もちろんお金を稼ぐことは大切ですが、それ以上に“どんな社会をつくりたいか”を考えることが、人生の軸になると思います。そして、多様な立場や価値観の人と協働すること…それこそが「社会をつくる」という行為そのものです。自分の心地よさに閉じこもらず、人と人との違いを受け入れ、共に動く力を大切にしてほしいと思います」
A:私は「保育園がなくても誰も困らない社会」を目指しています。誤解を恐れずに言えば、それは行政による支援(公的サービス)に依存しなくても、人々が自然に支え合い、共助・互助の中で問題が解決され、公助に頼らなくても困らない、つまり公助から自立した状態になる地域社会のことです。保育園は法的にも社会的にも公的サービスの一つです。けれど、理想はその“制度の支え”がなくても、地域の共助や互助が機能し、日常的に助け合いが生まれる社会です。たとえば「今日は忙しいから、〇〇さんに子どもをお願いするね」「子どもは皆で協力しながら職場で面倒を見るから、一緒に安心して働こう」といった、いわゆる“お互い様”の文化が根づいていれば、保育園がなくても困らないはずです。それは、消防署がなくても火事が起きないので誰も困らない街、警察署がなくても犯罪・事故が起きないので誰も困らない街と同じ理想です。私たちは子どもたちへの保育に力を入れるよりも、地域の保育力を支え、強化のために支援する。制度や仕組みが支える前に、人が人を支え合える社会…そこにこそ、福祉の原点があると思っています。
保育園を運営しながら、保育園のいらない社会を目指す。その言葉には、社会福祉の本質が詰まっています。近藤さんが描くのは、“支え合いが当たり前にある地域”という未来。福祉を“依存の状態”ではなく“自立と共助の文化”として再定義する姿勢は、これからの時代に求められる福祉のかたちを示しています。
「仕事は世の中をより良くするための手段。もちろんお金を稼ぐことは大切ですが、それ以上に“どんな社会をつくりたいか”を考えることが、人生の軸になると思います。そして、多様な立場や価値観の人と協働すること…それこそが「社会をつくる」という行為そのものです。自分の心地よさに閉じこもらず、人と人との違いを受け入れ、共に動く力を大切にしてほしいと思います」